2016/08/10 10:20

『蝉しぐれ』




少し前の映画の事ではない。
蝉しぐれ あと半年で 代ゼミ通い (字余り)

私が通っていた高校の先生がこの川柳をいたく気に入っていて、
事あるごとに絶賛をしていた。

1つ上の先輩の学級日誌に書いて有るのを見掛けたらしい。

『代ゼミ』とは云わずと知れた代々木ゼミナールの事で、
今や『東進ハイスクール』の影に息を潜めている感が否めないが、
当時は『駿河台予備校』と肩を並べて全盛を誇っていた大学入試
予備校である。

受験戦争、なんぞと言う言葉が世間を賑わせ始めた時代の話だ。
ご多分にもれず、私も勉学に勤しんでいた頃もあった。
難しい問題を解いた時の感激を知ったのも事実。
常識的な漢字を読めず、恥ずかしい思いも数多くしてきた。

これは中学生から始まった英語の授業の話。

成績が伸び悩んでいた頃に、何故か突然成績が急上昇し始めて、
得意科目が英語です。と、言い張れるまでに成った。

それは同時に私の性格が歪んだ瞬間でもあった。

問題と回答を照らし合わせると、
何となく点数の取り方が見えてきたのである。

出題する先生の気持ちに成って、先方が出す問題を予測すること。
言葉を変えれば、先生方が問題にしやすい箇所を重点的に学習する事である。

そうすると、みるみる内に成績は急上昇。
それから先は90点を割る事は無かったと記憶している。

『欲の皮』


人は何かを手に入れて満足すれば、その一時は至福の時を過ごせるが、
喉元過ぎれば暑さ忘れる、とはよく言った物で、至福の時間の持続力
は極めて短いもの、その感覚など直ぐに忘れてしまう。

成績が上がり始めるともっと上の成績が取りたくなるもの、
しかし勉強が嫌いなのはその頃から今の今まで変わっていない。
そして世の中の甘くない現実が私を待っていた。

期末試験は当然、みんなと同じように試験勉強に励むので有るが、
それはその場しのぎの実力であって博打みたいなもの。
自分自身の本当の能力ではない。

中学三年の頃、調子に乗っていた私は英語の成績がトップクラスを走っていた。
トップクラスと言う事で一番ではない。

ある時96点を取った私は、念願の一番を取ったのではないか?と、
クラスの秀才に彼の点数を尋ねたところ、
彼は98点だった。

まぁ、世の中そんなもんだ、と、思いつつ
ちょっと悔しい気持ちを抱きながら次回の試験に挑んだ。

前回の敗北を忘れずその次の私の試験の結果は何と98点!!!
今度こそ勝った!と、恐る恐るその秀才に結果を尋ねたところ。
彼は100点満点。

今度こそ世の中の厳しさを痛感した。
試験毎にだけ勉強し、出題者の考えを分析し、点数を稼ぐ私の様な輩は、
その秀才の様に毎日勉強に励む真面目な人間には到底敵わないのである。
それでいいのだ。

それでも真面目に勉強しないのが自由人流なのである。

『相手の出かた』


相手の出かたを予想して行く方法はそれからの私の人生に
大きく役立つ事になる。

例えば英会話、

こちらが相手に何かを問い掛けた時、応えてくる内容は大方予想がつき,
予想の範囲内の言葉を予め用意しておけば自ずと相手の言葉は聞き取り易い。

実際にどんな食べ物が好きなのかを問えば、答えは食べ物であるし、
お笑いのジョークでなければとんでもない答えは皆無に等しい。

What kaind of foods do you  like ?
I  like 『katsu-don』

と、成るわけで、I like『KARUIZAWA 』とは
まず成りえないと考えるのが妥当である。

ものつくりと何の関係が有るのかと言えば、
『相手の出方の予想』である。

日本人は何故か学校と名の付く場所が好きである。
ご多分にもれず、機械式腕時計職人にもその人達の為の学校が存在する
のであるが、原宿辺りの時計職人養成学校に入学すれば100万単位の
資金が必要な上に学校まで通わなければならない。

時間も金も無い私は必然的に独学を強いられる訳である。

何万円もする新品の時計を分解するのは流石に勇気がいった。
リューズと言う部品がなかなか外れずどうにも作業が捗らない。

この何万円の機械を壊すつもりで、一か八か思い切るべきか?
ここで『設計者の考えの予想』をしてみるのである。

合理的に考えて、その場所しかあり得ないボタンが固くて動かない。
ここで、壊す勇気と、設計者の考えの予想の両方の決断である。
余計な事を考えても先へは進めない。

かくして、私の思惑通りボタンが固かっただけで次のステップへ
進むことが出来て、今日の漢字時計が存在するのである。

『設計者の考えの予想は他の場面でも役に立つ事がある』


それは突然私の携帯電話に連絡が入った事から始まる。
車のナビゲーションシステムがどうも壊れたらしい。

様子から察するに、先日幼稚園に入園したばかりのチビの仕業らしい。
ナビゲーションが作動しないと何処にも行けないし、今時の車はバックミラー
を使わず、車の後ろを写すカメラの画像で車庫入れをするので、
それも出来ずに困ってしまうと言う。

車用品の量販店で新調するか、修理するかを勧めたが、
大枚を叩く余裕もないし、修理を待つ時間も無いらしい。

仕事と子育てを同時にこなすママ達は大変だ。
困った時はお互い様。暇な私が出来る事があれば協力させて頂こう。

その時のママは自由が丘の駅にいるらしい。
南口のスーターバックスでカフェラテを満喫しながら、
チビのレッスンの終りを待っている様子。

大捜索の上、南でない、北口のスーターバックスで呑気な
カフェラテ・マダムを発見した。

早く来い!と、言っていた割には、
存在しない南口のスーターバックスで呑気にカフェラテを嗜んでいる。

さすが成城マダムは理解がし難い。(笑)

チビの仕業で作動しないナビゲーションシステム。
もし私がナビゲーションの設計者であれば、
『子供のやりそうな事』を予め想定した設計をするであろう。

車には家族を含め、色んな人達が乗車する可能性があって、
無論、何をしでかすか解らない小さな怪獣は、
大暴れするのが仕事の様なものである。

大した腕力が有るわけでないはずなので、
そんなに大袈裟な壊しかたはしないだろうと推測出来る。

私には残念ながら子供は居ないが、
世のお父さんお母さんならある程度の予測は出来るはず。

まさか、プラスドライバーを用いて分解し、構造を研究したりはしないだろう。
気の向くままに行動するその小さな怪獣と、そのママの話を総合して
トラブルの原因を『予測』してみる。

すると何となく
『壊れていない』気がした。

色んなボタンを押してみると、中で機械は作動している様だ。
何処かで歯車がズレただけだと推測出来る。

ズレただけならそのズレを戻してあげれば元通りになるはずだ。
結果を言えば、コンパクトディスクを使用しているそのナビゲーションは、
DVDを鑑賞することも出来るらしく、鑑賞の際はナビゲーション用のディ
スクを一旦取り出して、鑑賞するDVDを入れるのだが、ただDVDを見たい
一心のそのチビは無理矢理アンパンマンのDVDを入れてしまい、
今回のトラブルに至った様だ。

本来ならば1枚しか入らないディスクが二枚入っていた。
こんな事をしても壊れないのが日本製品、見習わなくてはと感心した。

『こんな場面でも役に立った』


大学受験浪人とは名ばかりの自宅浪人をしていた頃、
有難い事に私は家庭教師なんぞをやらせてもらっていた。

私の所に来るくらいなのでさほど優秀と言う訳でない。
ある時、噂を聞き付けて彼の友人とやらが同席してきた。
私が得意な英語の成績がふるわないらしい。

期末試験は直ぐそこに迫っているとのこと。私の腕の見せ所。
出題範囲の教科書を拝見すると大量点の獲得を予見出来た。

私が先生だったら……………
問題にし易い文章だらけ、
間違え易い所と、分かり難い所を集中的に覚えてもらい、
よく有りがちな、引っ掛け問題の傾向を説明し、
具体的に私ならこうやって間違えさせる考えを伝えて試験に挑んでもらった。

結果は私が言った通りの問題や出題形式で出題され、
普段は30点位の生徒がいきなり80点位を取ってしまい、
本人よりも私が驚いてしまった。

1つ気掛かりなのは、カンニングを疑われないかと心配になってしまった。
残念ながら、私は程なくしてアフリカに旅立つ事になってしまったので、
その後のケアは出来なかったのだが、今となっては懐かしい思いでである。

かくして『予測』すると言うことは、各場面で有効であることに気付き、
今のものつくりへと繋がっている。

最後に、
『蝉しぐれ あと半年で 代ゼミ通い (字余り)』
この川柳を絶賛していた教師が
英語の教師であった事は予測出来なかったに違いない。


ものつくリスト  小柳 健一