2016/08/17 17:36

『日本の技術』


一口に技術と言ってもその意味は多岐にわたる。

絵を描くのも技術、
料理を作るのも技術、
車の運転も技術のうちだと思う。

そして、人の考えや気持ちを変えさせる技術、
要は顧客や異性を口説くのも1つの技術と言えよう。

でも前置きとは関係無く今回触れたいのは、
ものつくりの技術である。

『日本の技術は世界一』

とは言うものの、具体的にはどういう技術なのか。
一言聞いて、クダラナイ、と思ってしまうような事が
非常に難しい技術だったりする。

『キサゲ作業』

金属を平(たいら)にする技術である。
正確に云うとオイルが若干滲む程度の溝を残しての
平面を作る作業である。



これがかなり難しいらしい。

精密機械、精密加工と、
その言葉を聞けば機械で簡単に出来そうだが、
これだけ技術が発展した現代でも人間の手でしか
平面を作る事が出来ないらしい。

まずは、金属を始めとした素材は温度による膨張や収縮が避けられない。
おまけに密度もまちまちである。

知人の工場での精密加工の依頼は1000分の1単位の加工が殆どを占める。
ゆえに、その寸法と同時に『温度』を指定されるらしい。

摂氏23度の状態で10.52ミリ
と言う様にだ。

気が遠くなりそうだが、
先人の技術者達は気が遠く成る程の精神力で
その技術を磨いてきたのだと推察する。

では何の為に『水平の平面』が必用なのか?

それは、仕上がった精密加工品の品質管理が主な目的だと言う。
ぴったり、寸分の狂いもなく、直線や平面が出ているかを測るのは
完璧な平面でしか確かめられない。

皮肉なものだ、

『人間の手では出来ない精密加工』
『人間の手でしか出来ない精密加工』でしか管理が出来ない。

ん? ちょっとややこしいか?

『水平の平面』


その水平の平面を漢字時計製作にも利用する。
厚み0.2ミリのスターリング・シルバーの板から切り出した
漢字デザインの時計針の水平を見るためである。



横から見れば一目瞭然、
御覧のとおり、水平とは程遠い仕上がりである。

因みに、この撮影時の平面はスマートフォンの画面を使っている。

水平方向の多少の誤差は許容範囲なので、
キサゲ仕上げの様な精密な平面は必要ない。

このままでは漢字時計の製品にはならないので、
出来るだけ平面に近付けていく。

これがけっこう面倒で、一番の難所である。

前述の様に素材は温度で変化し密度もまちまち、
切り出した瞬間から、密度の高い所は膨張し、密度の低い所は収縮する。

よって切り出した瞬間の製品は、膨張と収縮の狭間で歪んでゆくのである。

修正方法を書きたいところだが説明が面倒なのと、
どう説明したら良いか判らないので、その内に書いて見ようと思います。

『小さな部品』


小指の先程の小さな部品に穴を開けようと考えた時、
穴を開ける素材にもよるが、素材を作業台に固定する技術が
重要になってくる。

硬い物で有れば強い力で固定すれば良いが、
強すぎては素材を傷付けてしまう。

場合によっては、
穴を開けた瞬間に素材の密度のバランスが崩れて割れてしまう。

逆に柔らかい素材では、固定したと同時に素材自体の形が崩れて、
穴を開けたとしても、作業台から外した瞬間に素材の密度が引っ張り合い、
穴の寸法を狂わせてしまう。

帯に短し、襷に長し、とはよく言ったものだと感心してしまう。
いや、違うな、彼方を立てれば此方が立たず、…………かな。

何れにしても色んなバランスがものつくりを支えている。
漢字時計の針を切り出すとき、仕上げの作業は物凄い繊細な作業になる。

『人間の身体の神秘』


薄いスターリング・シルバーを
曲げてしまわないように、そして傷付けてしまわない様に、
絶妙な力加減で押さえて、仕上げの作業に入る。

絶妙な力加減と言ってもピンセットでは表面を傷付けてしまうし、
指先では、手の脂で指紋が付いてしまう。

では、どうするかと言うと、爪で押さえる事が一番有効だと、
今のところはそれが結論である。



表面を傷付けず、
程よい弾力、グリップ力、力加減の調整のしやすさ、

なんと言っても一番の理由は、
爪ごと削る事が出来る事である。

この方法が、細かい作業の効率を格段に良くした。
爪は直ぐに再生して、また同じ様に作業ができる。
まさに、人間の身体の神秘、機能の奥深さを感じる。

『熱伝導』


アルミニウムと言う素材は熱伝導機能が優れているらしい。

私が幼い頃は、金属は『鉄』が主流でアルミニウムは高価な素材で
あった様だが、溶解して再利用の技術が発達した今では
ありとあらゆる場所に使用されている。

軽くて錆難い、その上に加工もしやすい。重宝されるのは当然である。

そこで、熱伝導の話。
私はハーゲンダッツより、日本の百円で買える様なアイスクリームが好きであるが、
何れのアイスクリームも冷凍庫から出した時は非常に硬いものである。

木材から切り出した平らなスプーンは、下手をすると折れてしまうほどだ。
そこで最近、アルミニウムの熱伝導の速さを利用したアイスクリーム用の
スプーンが発売され話題を呼んでいる。



アルミニウムの熱伝導の良い特性を利用して、指先の体温を瞬時にスプーンへと伝え、
アイスクリームを丁度いい柔らかさへと溶かして行くらしい。

『熱の仕業』


人は暑すぎても寒すぎても生きられない。
メンドクサイ生き物だ。

どちらかと言うと寒すぎる方が生きやすく、
暑すぎるのはどうにもならない事が多い様な気がする。

機械も同様、俗に云うオーバーヒートと言うのはかなりの厄介なものである。

デスクトップのパソコンの裏側を見て頂きたい。
扇風機のようなファンが付いているはずだ、電気製品の熱を逃がす重要な部品だ。

機械類の故障は、まずは熱が原因の場合が多い。
その熱を逃がすファンは、モーター、配線、ケース、ファン、他、
多くの部品から成り立っている。

しかし部品点数の多さは故障の多さに直結する。
そこでその部品点数の削減に大きく貢献したのが『素材の特性』である。

アップルコンピュータ社のノート型パソコン等は、
放熱効果の高い素材を利用して部品点数を減らしているらしい。

『人間の体の機能』


技術の進歩は日進月歩、
10年前には想像出来なかった様な事が今は可能になっている。

ロボットも、人と見間違う程の仕上がりになっていて、
医療業界の手術ロボットも、
人の手の匠の仕事に迫る精密な動きが出来るそうだ。

インターネットの回線を使い遠隔操作まで出来て、
地球の裏側でもリアルタイムで手術が可能だと言う。

ただ、どんなに細かく精密な動きが出来ても、熱を逃がす事が出来ないらしい。
人間の体は汗で熱を逃がしている。

気化熱の原理を利用しての事だ。
夏の風物詩、打ち水も同じ原理。

例えば、人の手の大きさの中に電流を流したり、
小さく複雑な歯車を組み込んで、人の手の実物に近付けたロボットが出来たとしよう。

例えばそこまでは出来たとしても、どうしても放熱機能が組み込めず、
熱がこもって故障してしまうらしい。

結局いくら頑張っても人間は、
まだまだ人間自身の身体の神秘を越えられないのです。
越える必要も無い気がするのは
私だけでは無いはずです。


ものつくリスト  小柳 健一